「クエっ!けんこーさん!クエがあがったよ!」
「ウソだろ。クエなんて獲れるわけないじゃん。こんなところで。」
「うわ、本当だ。まだ〆きれてないよ。誰かナイフ、ナイフ。」
と仲間が騒ぐので、鴨を半分捌きかけたまま岸辺へ駆けつけた。なんとこの日このキャンプに初参加のやつが体調一メートルのクエをヤスで突いていた。モロコとも呼ばれるこの魚は日本のハタ科最大種で、天然物はキロ一万円の超のつく高級魚だ。
「水深十九メートルの根の間に影が見えたんですけど、濁りがひどかったから。次のチャンスはないなと思って、尻尾のあたりに銛を打ち込んで一気に引き上げましたよ!」
予想をはるかに超えたデカクエに興奮気味の仲間たち。仕留めた本人にとっては初めてのクエではないので、みんなで召し上がって下さいという。遠慮気味に我々は、
「じゃあ、頭だけでいいよ」
「モツは今日中に食べちゃったほうが痛まないんじゃないかな」
「どうせモツを出すんなら腹のところもちょっとだけ切っとく?」
と急遽加わったこの食材で調理が忙しくなってしまった。
クエの捌き方は、まず鎧のような鱗から。細かくびっしりと全身を覆う鱗は手強い。包丁の歯をダメにしてしまう覚悟で切り剝がすようにごりごりと引く。
次に魚のもっとも傷みの早い鰓を切り取る。ざらりとした鰓は普通の魚でも引き出す手が痛いのに、クエのそれはもう凶器だ。軍手をしてからしっかりと押さえつけ、根元から切り離す。
お尻の部分から胸元に向かって包丁の刃を外側に向けながら腹を開く。貴重な内臓を包丁の刃先で傷つけないためだ。そう、鮮度の良い内臓は身の部分よりもずっと旨いのだ。ぴくぴくした心臓はこの巨大な身体からは想像もできないほど小さい。これは獲物を獲ったものだけの特権。海水ですすいで、そのままパクリ。
「うん、うん、う~ん。うん!旨い。新鮮なレバーのような。刺身のような。」