初めての調理は『丸鶏の無水ダッチオーブンチキン』
- 丸鶏の中抜きを一羽用意。外側も内側もたっぷりと粗挽き胡椒と粗塩を振って馴染ませている。
- 皮を剥いたニンニクを丸ごと一個分、カットした皮つきのジャガイモを腹に詰める。
- プレヒート(事前にダッチオーブンを炭火で温めておくこと)したダッチオーブンの底にオリーブオイルを大さじ2杯均等にたらす。丸鶏の腹を上にしてそっと置く。多く切り過ぎたジャガイモとニンニクをさらに鶏の周りに並べて蓋をする。
- ダッチオーブンは脚付きなので、七輪でよく熾した木炭を使い、下には少量の炭、蓋の上にはたっぷりの焚き火や炭火を載せる。
- 蒸し焼きにすること三十分、蓋をずらす。焼けた肉とニンニクの香りのする蒸気があがるが、ぐっと我慢。焦げ目をつけるため、蒸気を逃がしながら熾火を蓋の上に増やしてさらに十五分焼き上げる。
リフター(ダッチオーブン専用の蓋を開ける金具)で重さ三キロの蓋をぐっと持ち上げる。ふっくらとした腹にはぱりっと茶色に焼き上がった皮が光っている。火傷しないようにジャガイモとニンニクを大皿に取り出す。大きなヘラ二枚で挟み込んで丸鶏を大皿へ移した。
初めてカットする丸鶏だが、まず刃を入れる場所は腿肉の付け根がいいように思えた。そっと包丁をその根元に入れてみれば、なんと澄み切った黄金色のスープが切れた皮目からほとばしるように流れ出てきたのだった。
鶏のスープが染み込んだ野菜も、黒胡椒がしっかり効いた鶏肉も、ただ焼いただけなのに刺激的な旨さである。何しろ柔らかい。ほろりと身が剥がれる。手づかみで骨から身を外して食べる。ニンニクも口に放り込む。舌で潰せるほどに柔らかい。ときどき思い出したようにあおるビールの缶は脂でべとべとだが、皿が骨だけになるまで誰も手が止まらない。蒸し焼き鶏、ビール、ビール、蒸し焼き鶏、ニンニク、ビール。
無水調理とは水をまったく使わない調理方法。炭火で加熱された鶏肉と野菜から出る水分が密封性の高いダッチオーブンの中で混じり合い、またそれぞれの食材へと戻っていくという驚きの料理法だったのだ。
食べ終わったらダッチオーブンでたっぷりの湯を沸かす。鶏肉のカスや野菜くずが鍋底についているので、ささらで汚れを落とす。湯をこぼしてもう一度沸かしてからさらに汚れを落とし、焚き火でしっかりと乾燥させる。風通しの良い場所で冷ましたら、布でオリーブオイルを塗る。内側も外側も、鍋底の脚の周りも。蓋にかかれたLODGEの文字もなぞるように。丁寧に。
そしてニンニクの香りで鉄臭さもだいぶ落ち着いたそのダッチオーブンは、朝より少し黒味を帯びていた。
「よし、ニンニクで男らしい匂いのダッチオーブンになったけれど、まだ油の馴染みが足りない気がする。次はここの揚げ物料理をやろう。海岸で作れば油の匂いもこもらないからいくらでも食べられそうだ。」
翌週の週末にいつもの海岸で約束した男たちは、濃いめの焼酎に切り替えていつまでのレシピ本をつまみがわりに眺め続けていた。