「旨い!これは旨いよ、東さん」
「皮が香ばしいよ、でも醤油、掛け過ぎだね。」
「ビールのつまみには塩辛い位がちょうどいいんじゃない。」
「エリちゃんの獲ったシッタカ、貝の身が奥に逃げ込んで取り出せないよ」
「割り箸の先を削ればいいんだよ、爪楊枝みたいに」
「違うよ、割っちゃえばいいんだよ、こうやって」
どかっと小石を叩き突けてシッタカの殻を割り、貝殻まみれになったシッタカをつまみあげて、海水で洗って食べるエリちゃん。
ビールを飲み、獲ってきた魚を肴につまむ。楽しいのだ。これが本当に楽しいのだ。すっかり食欲と狩猟欲を満たされる魚突き宴会の虜になった。この日を境に、エアタンクを背負って潜るダイビングを止めてしまった。そうして毎週、手銛を片手に磯から海に入り、素潜りでメバルやカサゴなどの根魚を追いかけることになったのである。
そのうち「ゆの会」では「モノトリ」という言葉が出来て、オトコたちはヤスを持って海に集まるようになっていった。春から晩夏にかけて潜り続けること数年。そしてある日のこと。「MOGULER’S DELIGHT」(現在は閉鎖、管理人著書に「銛でひと突き」がある)という日本最大の魚突きサイトを見つけたのである。
海に潜って魚をついて獲る。
ヤス(銛)で魚を突いて獲り、
それを食料にしてキャンプをしながら全国を廻る。
日本人という海洋民族の誇りを感じ取って欲しい。
…というトップページから始まり、50センチを超えるクロダイや石鯛、70センチオーバーのスズキやマダイなどの大物が掲載されていた。全国の魚突きの大物記録と捕獲ストーリーを管理人が獲物写真やサイズ、捕獲した手銛スペックと合わせてサイトに記録してくれるのだ。
震えた。こんなことができるやつらがいるのか。よし。大物を獲ってサイトの管理人、栗さんに送ろう。それまで水底でときどき見かけた黒鯛を追いかけることに夢中になり、秋になっても、真冬になって雪がちらついても、磯から海に入った。そしてついに50センチを超える黒鯛の姿を海藻の陰に見つけ、手銛を打ち込むことができたのが、2001年12月。真上から打ち下ろした銛を水底にぐいっと押し付けたまま、腰に下げた網の口を広げて黒鯛の頭から被せる。海からあがり、雪の降る磯でいつまでもウェットスーツのまま黒鯛の銀色に光る魚体を眺め、外に出しっ放しでぎんぎんに冷えているエビスビールを飲む。旨かった。
この日獲った黒鯛は刺身や味噌漬け、潮汁となり、魚の捕獲記録や料理の記録を残そうとサイトを立ち上げる。「ゆの会」の漁獲の記録や宴会の様子、料理のレシピを掲載する「海でごはん。海のごはん。」の始まりだった。(このサイトに主なコンテンツは引き継がれ、海でごはん…は閉鎖)